働き方の実態2026-08-10監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

介護職の離職率と定着率 — 九州の実態と辞めない職場の見分け方

この記事の要点

「前の職場は3か月で辞めました」——九州のある介護施設で面談をしていたとき、20代の女性がそう教えてくれたことがあります。理由を聞くと、求人票に書かれていた夜勤回数と実際のシフトが違っていた、それだけでした。

介護職は「離職率が高い仕事」というイメージを持たれがちですが、公的統計を見る限り、全産業平均と比べて突出して高いわけではありません。むしろ問題は「施設ごとのばらつき」の大きさにあると僕は考えています。この記事では、離職率の実態、辞める理由の傾向、そして九州の採用現場で見えてきた「定着する施設」と「早く辞める施設」の違いを、具体的なチェックポイントとあわせてお伝えします。

1. 介護職は本当に辞めやすい仕事なのか — 全産業と比較して見る離職率

介護労働安定センターが毎年実施している「介護労働実態調査」と、厚生労働省の「雇用動向調査」を突き合わせると、介護職の離職率はおおむね14〜15%前後で推移しており、全産業平均(雇用動向調査でおおむね15%前後)とほぼ同水準、という結果が続いています。「介護職は入っても3年で3割辞める」といった話を聞くことがありますが、これは業界全体の平均というより、一部の施設・一部の年代に偏った体感が独り歩きしている面があると僕は見ています。

同じ雇用動向調査の中でも、業種によって離職率は一桁台から20%台まで幅があることが分かります。介護職の14〜15%前後という数字は、その幅の中で見れば中位あたりに位置するもので、業界としてずば抜けて高い水準にあるわけではありません。ただし、この「ほぼ同水準」という数字を鵜呑みにするのも危険です。平均値はあくまで多数の施設をならした結果にすぎず、介護業界の中でも同じような幅の広がりが存在します。開設から日が浅い施設や夜勤体制が整っていない施設では離職率が20%を超える一方、定着支援に力を入れている施設では10%を切るところもあります。つまり「業界としての平均」よりも「自分が応募する、その施設の数字」のほうが、意思決定にとってはるかに重要な情報だということです。この視点を持たずに「介護は離職率が高いから不安」「全産業と同じくらいだから安心」のどちらかで止まってしまうと、実際の職場選びでは判断を誤りやすくなります。

2. 離職理由の実態 — 人間関係・収入・体力、何が一番多いか

同じ介護労働実態調査では、離職理由として「人間関係の問題」「収入が少ない」「身体的負担が大きい」の3つが、毎年ほぼ同じ顔ぶれで上位に入り続けています。年によって順位の入れ替わりはあっても、この三層構造自体は長年ほとんど変わっていません。厚生労働省の雇用動向調査でも、離職理由の上位に労働条件や人間関係が挙がる点は他産業と共通していますが、介護職の場合は身体的負担がより強く影響している、という点に特徴があります。

僕の体感値で言うと、面談の場で最初に語られる理由は「人間関係」であることが多いのですが、掘り下げて聞いていくと、その奥に「夜勤明けの疲労が抜けないまま次のシフトに入っていた」「忙しくて相談する余裕がないまま孤立していた」といった、体力面・シフト面の負担が隠れているケースが少なくありません。「人間関係が理由でした」という言葉をそのまま受け取ってしまうと、次の職場選びでも同じ失敗を繰り返しがちです。表面的な理由の奥にある、シフトの組み方や相談体制まで含めて振り返っておくと、次に選ぶ職場の精度が上がると僕は考えています。

3. 九州の採用現場で見えた「定着する施設」と「早く辞める施設」の違い

九州各県の施設を見ていると、同じ「特別養護老人ホーム」という括りの中でも、定着率には大きな差があります。たとえば佐賀県内のある小規模多機能型施設では、夜勤明けの翌日を必ず休みにする、日勤帯でも新人には必ず先輩が1人ついて業務を確認する、という運用を数年前から徹底したところ、それまで年間で数名出ていた早期離職がほぼ止まった、という話を採用担当者から聞いたことがあります。制度としては特別なことをしているわけではなく、「決めたことを守り続ける」だけなのですが、それが積み重なると数字として表れてくるのだと感じました。

一方で、開設して間もない熊本県内の大型有料老人ホームでは、稼働率を上げるために採用を急ぎ、教育担当者を配置しないまま新人を現場に出してしまい、結果として「聞ける人がいない」まま数か月で辞めてしまう、というパターンを何度か見てきました。規模の大小そのものよりも、「新しく入った人が孤立しない仕組みがあるかどうか」が定着を分ける境目になっている、というのが僕の実感です。求人票の待遇欄だけを見ていても、この差はほとんど見えてきません。

宮崎県内のデイサービスでも似た構図を見たことがあります。利用者数の割にスタッフ数が最低限で運営されていた事業所では、送迎から入浴介助まで一人あたりの業務量が多く、経験者ですら数か月で疲弊して辞めていく状況が続いていました。逆に近隣の同規模事業所では、繁忙時間帯だけパート職員を厚めに配置する工夫をしており、常勤職員の定着が明らかに安定していました。同じ職種・同じ規模でも、時間帯ごとの人員配置という一点で結果が大きく変わることを、僕はこの事例から学びました。

4. 早期離職した人に共通する4つの見落とし

これまで見てきた早期離職のケースには、いくつか共通するパターンがあります。求人票や面接の時点で確認しておけば防げたものも多いので、順番に見ていきます。

① 夜勤回数・オンコール体制の確認不足

求人票には「夜勤あり」としか書かれていないことも多く、月に何回入るのか、明けの休みは確保されるのか、オンコール(緊急呼び出し)があるのかまでは、書面だけでは分かりません。ここを面接で確認せずに入職し、想定より夜勤が多くて体力的に続かなかった、というケースが、僕が見てきた中では最も多い印象です。夜勤の回数は生活リズムそのものに直結するため、条件面の中でも優先して確認しておきたい項目です。

② 「人間関係は入ってみないと分からない」という思い込み

人間関係は確かに入職前には見えにくい部分ですが、見学時のスタッフ同士の声かけの様子や、面接官が現場の雰囲気をどのように説明するかから、ある程度の傾向はつかめます。「分からないから調べても仕方ない」で終わらせず、見学の機会を積極的に使い、できれば違う時間帯・違う曜日に複数回足を運んでみることをおすすめします。

③ 資格取得支援の有無だけで職場を選んでしまう

初任者研修や実務者研修の費用補助は魅力的な条件ですが、それだけで職場を決めてしまうと、日々のシフト管理や相談体制が自分に合っているかを見落としがちです。制度の充実度と、日常業務の働きやすさは別の軸で確認する必要があります。

④ 通勤時間・移動負担の甘い見積もり

九州では車移動が前提の地域が多く、求人票の「駅から徒歩◯分」という表記だけでは実際の通勤負担が見えにくい場合があります。冬場の路面凍結や渋滞の時間帯を考慮せずに通勤時間を見積もり、夜勤明けの運転が想像以上に負担になって続かなくなった、という声を聞いたこともあります。特に夜勤がある職場では、通勤手段と所要時間を面接時に具体的に確認しておくことをおすすめします。

5. 求人票と面接でチェックすべき定着シグナル

定着率そのものを求人票に明記している施設は多くありませんが、間接的に読み取れるシグナルはいくつかあります。面接で質問する際の参考にしてください。

チェック項目見るポイント質問例
夜勤体制月の回数・明け休みの扱い「夜勤は月何回程度で、明けの休みはどう確保されていますか」
新人教育の体制担当者がつくか、期間はどれくらいか「入職後、独り立ちまでどのくらいの期間、誰がついてくれますか」
有給休暇の消化状況取りやすい雰囲気があるか「有給休暇は皆さんどのくらい取れていますか」
平均勤続年数スタッフの年齢層・在籍年数の幅「長く働いている方はどのくらいの年数の方が多いですか」
相談窓口の有無上司以外に相談できる仕組みがあるか「困ったときに相談できる窓口はありますか」

これらの質問に対して、担当者が具体的な数字や仕組みで答えられる施設は、定着に対する意識が高い傾向にあると僕は感じています。逆に「特に決まっていません」「人によります」といった曖昧な答えが続く場合は、少し慎重に検討したほうがよいかもしれません。1つの質問への答えだけで判断するのではなく、複数の項目を組み合わせて、職場全体の姿勢を見るつもりで聞いてみてください。

6. 転職を考えたときの実務手順 — 今日からできる3つのアクション

ここまでの内容を踏まえて、実際に転職を検討する際に今日から始められることを、所要時間の目安とあわせて3つ挙げておきます。

1つ目は、今の職場を辞めたい理由を紙に書き出してみることです。所要時間は10分もあれば十分です。「人間関係」とひとことで片づけず、「誰との、どんな場面での何が負担なのか」まで分解すると、次の職場に何を求めればよいかが具体的になります。

2つ目は、気になる施設に電話で問い合わせ、夜勤体制と新人教育の期間を必ず質問することです。1件あたり5分程度の電話で構いません。求人票の記載だけで判断せず、担当者の口から具体的な数字を聞き出すことを習慣にしてください。

3つ目は、見学や面接の場で処遇改善加算の説明を求めることです。質問1つを追加するだけなので、面接時間が数分延びる程度で済みます。給与に加算がどう反映されているかを説明できる施設は、制度や労務管理に対する意識が比較的高い傾向にあります。この3つは、いずれも特別な準備がいらず、今日の電話一本からでも始められます。

(結論)

介護職の離職率は、公的統計で見る限り全産業平均とほぼ同水準であり、業界全体として突出して高いわけではありません。ただし施設ごとのばらつきは大きく、早期離職の多くは夜勤体制や新人教育、通勤負担など、面接時に確認できる範囲の見落としから起きています。求人票の文言をそのまま受け取るのではなく、夜勤回数・教育体制・有給消化率といった具体的な数字を面接で確認する習慣をつけることが、遠回りに見えて一番の近道だと僕は考えています。

皆さんいかがでしたでしょうか。今の職場に迷いがある方も、これから介護職を目指す方も、数字と仕組みの両方から職場を見る目を少しずつ育てていただければと思います。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 介護職は本当に離職率が高いのですか?

公的統計を見る限り、介護職の離職率はおおむね14〜15%前後で、全産業平均とほぼ同水準です。ただし施設ごとのばらつきが大きく、開設間もない施設などでは20%を超える場合もあるため、業界平均より応募先個別の状況を確認することが重要です。

Q. 離職理由で一番多いのは何ですか?

介護労働実態調査では「人間関係の問題」「収入が少ない」「身体的負担が大きい」の3つが毎年上位に入り続けています。ただし人間関係という理由の背景には、夜勤シフトの負担など体力面の要因が隠れていることも多く、表面的な理由だけで判断しない視点が必要です。

Q. 定着率が高い施設をどう見分ければいいですか?

夜勤回数と明け休みの扱い、新人教育の担当者と期間、有給休暇の消化状況、平均勤続年数、相談窓口の有無の5点を面接で具体的に質問し、数字や仕組みで答えられるかどうかを確認する方法が有効です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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